『キング・オブ・コメディ』で描かれる喜劇と悲劇【『ジョーカー』との関連性も】 | The Bird's Nest Hair  

『キング・オブ・コメディ』で描かれる喜劇と悲劇【『ジョーカー』との関連性も】

『キング・オブ・コメディ』(原題:The King of Comedy)というコメディ映画をご存知でしょうか?2019年一番の話題作『ジョーカー』の元になったとも言われている、巨匠マーティン・スコセッシ監督、名優ロバート・デ・ニーロ主演で1982年に公開された作品です。

スコセッシとデ・ニーロといえば、2012年にはイギリスのTotal Film誌が発表した「映画史に残る監督と俳優のコラボレーション50組」にて第1位にも選ばれた、映画史に名を刻む名コンビです。そんな2人がタッグを組んだ『キング・オブ・コメディ』は、もちろん当然のように名作です。

そう、名作です。疑う余地もなく名作なんです。

しかしこの映画、一筋縄ではいきません。

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【ネタバレ】『ジョーカー』から受け取った、喜劇も悲劇も全ては自分次第というメッセージ【感想/考察】


FT

個人的には、『キング・オブ・コメディ』は”コメディ”どころか、もはや”ホラー映画”だとさえ思います。

なぜか?

ロバート・デ・ニーロ演じる主人公ルパート・パプキンがサイコパスだからです。これに尽きます。

当記事では、名作であり今だ問題作として語り継がれる『キング・オブ・コメディ』をネタバレありの感想やあらすじで紹介していきたいと思います。

『キング・オブ・コメディ』概要

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

「タクシードライバー」「レイジング・ブル」のマーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロ主演によるブラックコメディ。コメディアン志望の青年ルパートは、有名コメディアンのジェリーに接触し自分を売り込もうとするが全く相手にされない。そこでルパートは、ジェリーの熱狂的ファンである女性マーシャと手を組んでジェリーを誘拐し、自らのテレビ出演を要求するが……。ジェリー役に往年の名コメディアン、ジェリー・ルイス。

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概要だけでは、主人公のサイコパス具合がまだ見えてきません。順に追って説明しますが、まずは、サイコパスの定義を紹介します。

サイコパスとは?

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

■サイコパス:精神病質者
精神病質(せいしんびょうしつ、英: psychopathy、サイコパシー)を患っている者。精神病質とは、反社会的人格の一種を意味する心理学用語であり、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われている。

■特徴
犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義している。

・良心が異常に欠如している
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的

サイコパスの主な特徴は、無慈悲・エゴイズム・感情の欠如・結果至上主義、であり、サイコパスの人間の大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者であるとされている。

Wikipedia引用

物騒な言葉が並びますね。『キング・オブ・コメディ』は、スコセッシとデ・ニーロお得意のマフィア映画なのか?と、思うかもしれませんが、違います。違うんですよ、違うからこそ怖い。

主人公ルパート・パプキンは、マフィアのような分かりやすい”悪”でもなければ、何か凄い特技や超能力があるわけでもない。普通なんですよ。どこまでも普通。

才能も何もない人間が拗らせてしまうと、こうも怖ろしい。自分の身近にもいるかもしれない、いや、むしろきっかけがあれば自分自身もこうなってしまうかもしれない、というリアルな恐怖。

僕が本作から感じたものは、人間が持つ「狂気」と「恐怖」です。

『キング・オブ・コメディ』あらすじ

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

デ・ニーロ演じるルパート・パプキンは、街一番の人気コメディアン ジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の熱狂的なファンで、手段を問わず強引に彼に近づきます。全ては彼に認められ、彼の番組に出演し、彼のように有名なコメディアンになりたいから。序盤からすでにパプキンは、強い承認欲求に憑りつかれています。

なんとかジェリーに接触できたパプキンですが、「後日電話してこい」と軽くあしらわれてしまいます。(しかしパプキンは、あしらわれたことに気づいていない)

後日、パプキンは言われた通りにジェリーに電話をかけるも、当然本人が出るはずもありません。彼の事務所にネタを録音したテープを直接持ち込むものの、ジェリーのマネージャーからは「光るものはあるが経験不足だ」と、番組出演を断られてしまいます。

しかし彼は何一つ諦めることなく、夜な夜な一人で”番組に出演した時の予行演習”を繰り返すのです。大勢の人の”写真”がプリントされた壁の前に立って…。

その後もパプキンは、コメディアンとしてジェリーの番組に出演できるように執拗に彼につき纏い、招待されていないにも関わらず彼の別荘へと勝手に足を踏み入れてしまいます。(悪気はありません)

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

当然、ジェリーは怒りますが、パプキンは反省するどころか逆上し、とんでもない行動にでるのです。

ジェリーの番組が収録される日、パプキンはジェリーを待ち伏せして、なんと彼を誘拐してしまいます。

もちろん願いはただ一つ。番組への出演です。


現実と妄想の区別がつかないパプキンに、罪の意識は全くありません。自分の才能を信じ、ジェリーの番組に出演し一花咲かせたい、それだけが彼の望みであり、すべてがそのための行動なのです。

しかし、彼はコメディの練習をまったくしません。己の芸を磨くという行動をとることが一度もありません。

しかし、彼は彼の頭の中では常に天才なのです。

ジェリーからの拒絶もマネージャーからの助言も、何一つ認めようとはせず、目的のために手段を選ばず、他人への迷惑も顧みません。そしてそれらすべての行為に一切の罪悪感を抱いてはいないのです。

自己承認欲に蝕まれた男はやがて、現実と妄想の境目すらつかなくなっていきます。

ここで振り返ってみてください。サイコパスの特徴を。

・良心が異常に欠如している
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的

・無慈悲
・エゴイズム
・感情の欠如
・結果至上主義

そう、もう怖いくらいすべてがルパート・パプキンという男に当てはまっています。

ここで記述しているあらすじは2時間の作品をぎゅっとコンパクトにまとめたものなので、実際にご覧になるとますますパプキンの異様さ、恐怖が浮き彫りになります。

ホラーとコメディは紙一重

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

「ホラー」と「コメディ」を「恐怖」と「笑い」・「悲劇」と「笑い」と、置き換えてもいいでしょう。

『ジョーカー』にこういった台詞がありました。

「喜劇も悲劇もすべて主観。自分次第だ。」

ジョーカーことアーサー・フレックが、デ・ニーロ演じるマレー・フランクリンに投げかけた台詞です。

まさにこの言葉通りのシーンが『キング・オブ・コメディ』には存在します。

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

一見、拍手喝采を浴びているホプキンの後ろ姿を映しています。そう、これはパプキンの”主観”を表しています。

パプキン自身にはこのように見えているのです。

しかし、この後カメラは徐々に”引いて”いきます…。

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

観客は”写真”なのです。あらすじにも記述した、夜な夜な大勢の人の写真の前で”番組の予行演習”をするパプキンのシーンです。

寄りから引きへ…パプキンの主観的目線→僕たち観客の客観的目線に映像が切り替ることで、パプキンの異様さ、気味の悪さを表しています。

壁一面の写真の前に立つ男が、さもそこに本物の観客がいるかのように話し、笑い、体を動かすのです。

主観で見れば喜劇でありコメディであっても、客観で見ればこのシーンは、悲劇でありホラー以外の何物でもありません。

『キング・オブ・コメディ』みどころ

© 1982 20th Century Fox Home Entertainment

①:『ジョーカー』の下敷きになった作品

『キング・オブ・コメディ』は、現在絶賛公開中の映画『ジョーカー』の元ネタとなっていることでも話題になっていますね。

『ジョーカーとの関連性』
  • ラストにつれて現実と妄想の境目が曖昧になる虚実入り混じるストーリー。
  • 主人公が憧れるのは街一番の人気司会者
  • ロバート・デ・ニーロのキャスティング
  • 時代設定(キング・オブ・コメディは1982年公開、ジョーカーの舞台は1981年)

上記のように『ジョーカー』との関連性を挙げればきりがなく、『ジョーカー』は『キング・オブ・コメディ』をあからさまに、確信犯的に、オマージュしていとるいえます。

そしてにより『キング・オブ・コメディ』の全編を通して描かれている、”笑うに笑えない悲惨な状況”。これは『ジョーカー』にも描かれているテーマの一つです。

例えば、『ジョーカー』の劇中。主人公アーサーの同僚で小人症のゲイリーという人物が、終盤である事態に陥ります。

あのシーンにはもう、凍り付いてしまいましたね。

「笑うに笑えない喜劇」「笑ってしまうほど悲惨な悲劇」

笑いと恐怖の表裏一体。

『ジョーカー』を観て、作品をもっと掘り下げたい、そう思った方にまず一番にお薦めする作品が『キング・オブ・コメディ』です。

②:ロバート・デ・ニーロの名演技

あの松田優作をもってして「この映画を見る前までは手が届く存在だと思っていたが、これを見て脱帽した」とまで言わしめた、ロバート・デ・ニーロの圧倒的名演技が全編通して炸裂しています。

さらに本作の監督であるスコセッシ自身も「自分がフィルムを回した作品の中で『キング・オブ・コメディ』こそが、デ・ニーロ最高の演技だ」と称しています。

主人公の不気味さ、狂気の沙汰がデ・ニーロの鬼気迫る演技によって何倍にも際立っています。

③:誰にでも当てはまる恐怖

「誰もがルパート・パプキンのようになりうる可能性を秘めている。彼は、決してスクリーンの中だけの人物ではない。」

その逃げようのない現実に、この作品の一番の恐ろしさを感じます。

例えば、敬愛するジェリーから電話がかかってくるのを待っているパプキンが誰にも公衆電話(時代を感じます)を譲ろうとしない様子が描かれているシーンがあります。もちろんジェリーからの電話はなく、結果、彼の後ろには長蛇の列ができてしまうという、これもまた”笑うに笑えない”シーンですが、これ、僕も経験したことがあります。

就職活動、最終面接を受けた企業からの合否連絡をスマホ片手に今か今かと待っていた当時の自分、あのころの自分自身と嫌でも重なってしまいましたね。

そういう、”見覚え”のあるシーンがいくつもあるんですよね、『キング・オブ・コメディ』には。

パプキンは確かにいき過ぎですが、決して嘘ではないというか、誰にでも起こり得る狂気なんですよ。

あとがき

『ジョーカー』を鑑賞したのち、気になって数年ぶりに観た『キング・オブ・コメディ』でしたが、いやぁ…やっぱりすごい映画です。

マーティン・スコセッシ最新作について

マーティン・スコセッシ監督待望の最新作『アイリッシュマン』が、いよいよ11月15日から期間限定公開(その後はNetflixにて配信)されます。

詳しくは下記記事にまとめているので、スコセッシファン、映画ファンの方は是非チェックしてみてください。

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