『アイリッシュマン』感想【スコセッシが描くギャングたちの栄枯盛衰/Netflix映画】 | The Bird's Nest Hair  
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『アイリッシュマン』感想【スコセッシが描くギャングたちの栄枯盛衰/Netflix映画】

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マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』を、2019年11月15日から始まった映画館先行上映で鑑賞しました。

(2019年11月27日からNetflix独占配信がスタート)

シネ・リーブル梅田。梅田の中心街からは少し離れたところにある大都会の隠れ家的映画館です。

上映されている映画も単館系がメインなので、映画好きの人以外はあまり足を運ばないちっこい映画館ですが、大好きな映画館のひとつです。

『アイリッシュマン』の公開は本日(11/15~)から一週間限定公開なので、大阪近郊にお住いの方で気になる方はお早めに。

『アイリッシュマン』に関するスタッフ&キャスト情報や見どころはコチラの記事をご覧ください。
『アイリッシュマン』を観るべき5つの理由とあらすじ【スコセッシ史上最高傑作】

本記事では、『アイリッシュマン』の感想のみを掲載しています。

『アイリッシュマン』の評価

アイリッシュマンのレビュー
演出
(5.0)
音楽
(3.0)
ストーリー
(5.0)
キャスト
(5.0)
リピート
(3.0)
総合評価
(4.5)

個人的には、『グッドフェローズ』や『ディパーテッド』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のようなロックの既存曲・名曲使いまくりのスコセッシ作品が大好きなので、50年代の楽曲を多用した『アイリッシュマン』の音楽は、あまり印象に残りませんでした

(50年代の音楽が多用されていることには、もちろん理由があります。)

209分という作品の時間上、観る側も気合を入れて鑑賞しなければならないので頻繁にリピートはできませんが、観返すごとに面白さと味わいが増す、まさにスルメ系の作品です。

演出・ストーリー・キャストに関しては文句なしの最高峰。星5までしか付けられないのが悔しい。

間違いなくスコセッシの新たな代表作です。

『アイリッシュマン』あらすじ

全米トラック運転組合のリーダー:ジミー・ホッファの失踪、殺人に関与した容疑をかけられた実在の凄腕ヒットマン:フランク“The Irishman”・シーランの半生を描いた物語。全米トラック運転手組合「チームスター」のリーダー、ジミー・ホッファの不審な失踪と殺人事件。その容疑は、彼の右腕で友人の凄腕のヒットマンであり、伝説的な裏社会のボス:ラッセル・ブファリーノに仕えていたシーランにかけられる。第2次世界大戦後の混沌とし たアメリカ裏社会で、ある殺し屋が見た無法者たちの壮絶な生き様が描かれる。

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『アイリッシュマン』感想(ネタバレ含む)

『アイリッシュマン』は、スコセッシ監督流「おっさんずラブ」でした。

…もちろんジョークですが、しかし、当たらずとも遠からずといったところです。(鑑賞した方には意味が伝わるかと)

①:驚異のDe-Aging Process技術

www.indiewire.com/2019/09/netflix-irishman-de-aging-vfx-photos-robert-de-niro-1202176497/

『アイリッシュマン』見どころのひとつは、なんといっても「俳優たちの若返り」です。

ハリウッドの最新技術、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)が生み出した“De-Aging Process”(俳優をCGで若返らせる特殊効果作業)によって若返った名優たちの姿に、一つの違和感も感じないのです。

実在感、想像を超えるリアル(現実)を伴って、若かりし頃のデ・ニーロがそこにいるのです。

ちなみにILM(インダストリアル・ライト&マジック)社は、ジョージ・ルーカス監督がスターウォーズ撮影のために設立した企業としても有名。これまで幾度となく映画の限界を突破してきた同社が、遂に、時空をも超越してしまいました。

スコセッシは、VFXを施すために役者に巨大カメラや機械、マーク(印)を付けるのは、「NO」な監督として知られています。これはもちろん、役者の演技を第一に優先させるためです。

ILM社の「De-Aging Process」は、役者にカメラを設置するのではなく、撮影カメラそのものに特殊なレンズを3つはめ込み、役者にVFX効果を施すというもの。

本作では、その特殊カメラを計4台使用して撮影を行ったそうです。

暗がりや、早いアクションで誤魔化されることは一切ありません。

顔面が静止画のように大写しになっても、そして、それがどれだけ明るい場所であっても、毛ほどの違和感も感じさせません。

昔ながらの職人気質の映画監督、あのマーティン・スコセッシが手放しで絶賛するほどの現代映画技術の最高到達地点。

デ・ニーロの若い姿を劇場で拝めるなんて、それだけで本作を観る価値は十分にあります。

では、肝心のストーリーはどうだったのか?

どうかご安心ください。そこは我らがマーティン・スコセッシです。面白くないはずがありません。

②:信頼できない語り部

本作は主な進行は、「晩年のフランク・シーランが、介護施設(老人ホーム)で彼のこれまでの過去を、ひとり静かに独白する」というものです。

本作の冒頭に登場するシーンであり、以降は、彼の語りによって物語が進んでいくことになります。

つまり、本作のシーンは全て、フランクの語り(フランクの頭の中)を映像化したものです。

そこに、嘘が一つも存在しないと言えるでしょうか?すべてが本当だと?

「信頼できない語り部」は映画作品の常套手段です。

しかし、“それ”をデ・ニーロに演じさせるということ。そして、そもそも、本作の原作には「ここで語られる物語は全て真実」だと書かれていること。以上の二つの要素が加わることで、『アイリッシュマン』は、異常に味わい深い、虚実入り混じる作品になっています。

虚実入り混じる展開はスコセッシの十八番ですが、『アイリッシュマン』でも華麗に炸裂しています。

50年代の音楽

『評価』の項目でも少しだけ言及した、本作の音楽。

50年代の音楽が多用されている『アイリッシュマン』ですが、これはつまり、フランク・シーランという男の人生のBGMです。

本当か嘘かは置いておいて、本作のシーンは全てフランクの頭の中の映像だということが、音楽でも表現されています。

③:スコセッシが描くギャングの栄枯盛衰

僕はてっきり、本作『アイリッシュマン』は、『グッドフェローズ』のような狂気と快楽が入り混じるギャング映画か、あるいは『ディパーテッド』のような暴力に満ちたバイオレンス映画を想像していましたが、その予想は大きく外れました。

間違いなくマーティン・スコセッシの集大成とも言える作品でありながら、しかし、今までのスコセッシ作品のどれとも違う不思議な作品です。

中盤以降が最高に面白い

www.rollingstone.com/movies/movie-reviews/the-irishman-movie-review-deniro-pacino-scorsese-902224/

序盤ももちろん面白いです。

デニーロ演じるフランクがどのようにして裏社会に入り、どのようにして伝説の殺し屋として名を馳せるようになったのか、その道筋を、スコセッシらしい独特なユーモアを交えて映し出されていく様は、彼の代表作のひとつ『グッドフェローズ』を彷彿とさせますが、本作が真に面白くなるのは、間違いなく中盤以降です。

フランク・シーラン

主人公フランクを取り巻く環境の変化、殺し屋として老いてゆく身体、成長した娘たちからは会話することすら嫌がられ家庭内で居場所を無くす、ひとり憐れな父親…

中年の哀愁漂う惨めな男になり果てます。

ジミー・ホッツァ

かつて全米一の権力を持っていたジミー・ホッツァは、誰からの忠告も聞かず、自分の否を詫びることすらできず、もはやただの老害に成り果ててしまい、最終的には組織(フランク)の手によって消されてしまいます。

ラッセル・バファリーノ

ラッセル・バファリーノに関しては、さらに生々しく容赦ない描写です。

彼は最終的に刑務所にぶち込まれることになりますが、そこでの描写がとにかくエグい。

「全ての道はラッセルに通づる」とまで言われていた裏社会最大のボスは、高齢による心臓発作を発症、後遺症の半身麻痺で食器もまともに持てず、おまけに歯がないからパンを噛み切ることすらできない。

よぼよぼの老い耄れになり果ててしまうのです。

かつてはこの世の全てを手に入れたかに見えた男たちが、これほどまでに無惨に、醜く、朽ち果てていく様を映画で描くスコセッシのエグさ、真骨頂。

④:こんなデ・ニーロ観たくなかった

https://cdn.theatlantic.com/assets/media/img/mt/2019/09/irishman/lead_720_405.jpg?mod=1569860592

スコセッシによる容赦のない描写はまだまだ続きます。

晩年のフランクは、中年フランクの比ではないほどさらに惨めな姿を晒します。

家族を顧みず殺し屋として働いていた過去のツケを払うかのように、一人ぼっちで老いていく孤独な男…

もはや呂律も回らず正しく発音することすらできず、足を引きずり松葉杖に寄りかかり、自分が入る棺桶を自分で選び、娘には相変わらず口も聞いてもらえない…

少しでも救われようと神に祈りを捧げる毎日は、ただの足掻きでしかなく…すべてが遅すぎた…

なんと惨めな…

最新のVFXで若返ったデ・ニーロをこれでもかと見せつけておきながら、最後はこれ。

こんなデ・ニーロ観たくなかった…

観客は間違いなくそう思うはず、というか思わずにはいられない。

直接的な暴力描写よりも胸に迫る、残虐非道なまでの描写。

さすがスコセッシ、とことんエグいです。

⑤:フランクの最後の言葉が胸に刺さる

「人は歳をとってはじめて、時の流れの速さに気がつく。人生はアッという間だ。」

フランクの最後の台詞ですが、如何にデ・ニーロの演技が卓越していようとも、『タクシードライバー』や『グッドフェローズ』時のデ・ニーロには決して言えなかった台詞です。

76歳を迎えた今のデ・ニーロにしか言えない、今のデ・ニーロから発せられる言葉だからこそ、胸に迫る台詞です。

スコセッシは、デ・ニーロにこの台詞を言わせるためにこの作品を創り上げたのではないか、そう思うほどに印象的な台詞でした。

『アイリッシュマン』の様々な感想

209分という時間も含め、本作は一筋縄ではいかない作品で、映画館で一度観ただけでは飲み込めないほど巨大です。

Netflixで何度も見直しができるのは本当に有難いですね。

あとがき

www.filmlinc.org/nyff2019/daily/photos-martin-scorsese-cast-hit-the-red-carpet-at-the-irishman-world-premiere/

ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシの歴史的名優3人が揃い踏み、その姿を巨匠マーティン・スコセッシがスクリーンに焼き付ける。

この事実がすでに映画ファン垂唾ですが、「今」のロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシを「今」のマーティン・スコセッシが撮るということに最も意味がある作品です。

一人の男の人生を描いた「映画らしい映画」。

間違いなく傑作です。

FT

Netflixでいつでもどこでも気軽に鑑賞できるので、普段、映画をあまり観ないという方も是非、ご覧ください。

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