『リチャード・ジュエル』ネタバレ・感想【イーストウッドが鳴らす、現代社会への警鐘】 | The Bird's Nest Hair  
【2020/03/04】New Article Update!

『リチャード・ジュエル』ネタバレ・感想【イーストウッドが鳴らす、現代社会への警鐘】

クリント・イーストウッド監督の記念すべき40作目『リチャード・ジュエル』を観に行きました。

本記事では、あらすじ・ネタバレ・感想をまとめています。

『リチャード・ジュエル』の評価

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『リチャード・ジュエル』のレビュー
演出
(4.0)
音楽
(4.0)
ストーリー
(4.0)
キャスト
(5.0)
リピート
(3.0)
総合評価
(4.0)

クリント・イーストウッド89歳、40作目の映画作品である『リチャード・ジュエル』。

近年のイーストウッド作品(『運び屋』『ハドソン川の奇跡』『アメリカン・スナイパー』『ジャージー・ボーイズ』)などと比較すると、派手さこそないものの、熟練した映画つくりと現代社会にも通じる普遍的なテーマに引き込まれます。

そして、ほぼ無名ともいえる主演のポール・ウォルター・ハウザーが、とにかく良いアジだしてます。彼を主役に抜擢した時点で、本作は成功も同然。

脇を支えるのは、アカデミー俳優のサム・ロックウェルや名女優キャシー・ベイツら盤石の布陣で抜かりなし。

絶対に裏切らない、イーストウッド・クオリティ。鑑賞後の余韻が心地いい。

Milk

「クリント・イーストウッドの映画にハズレ無し!」が、また、ひとつ更新されました。

『リチャード・ジュエル』スタッフ&キャスト

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『リチャード・ジュエル』スタッフ

スタッフ
監督クリント・イーストウッド
脚本ビリー・レイ
原作マリー・ブレナー
製作レオナルド・ディカプリオ/アンディ・バーマン/ジョナ・ヒル
撮影イヴ・ベランジェ
音楽アルトゥーロ・サンドヴァル

『リチャード・ジュエル』キャスト

『リチャード・ジュエル』キャスト
リチャード・ジュエルポール・ウォルター・ハウザー
ワトソン・ブライアントサム・ロックウェル
バーバラ・ジュエル(ボビー)キャシー・ベイツ
キャシー・スクラッグスオリヴィア・ワイルド
トム・ショージョン・ハム

『リチャード・ジュエル』あらすじ

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

その日、全国民が敵になった。

1996年、警備員のリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は、ジョージア州アトランタにある記念公園で不審なバックパックを発見する。

公園では、オリンピック関連のコンサートが開催されていた。リチャードは他の警備員や警察と協力して市民を安全な場所へと誘導する。

そのとき、

爆弾が破裂する。仕込まれた釘が容赦なく人々を突き刺す。

死者2名、負傷者100名の大惨事となったが、リチャードの勇気ある行動がなければ被害がさらに甚大であったことは明らか。

事件を未然に防いだ彼は、「英雄」と称賛された。

しかし、数日後、地元メディアがジュエルを容疑者であるように報道したことで事態は一変する。

勇気ある「英雄」から、残酷な「爆弾魔」へ。

加熱するメディアの報道とFBIの執拗な捜査が、ジュエルを精神的に追い詰める。

窮地に立たされた彼に救いの手を差し伸べたのは、旧知の弁護士ワトソン・ブライアント。

2人は真実を訴えて立ち上がる。

敵は、FBIとマスコミ、そして、3億人のアメリカ国民…

『リチャード・ジュエル』ネタバレ

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

※以下を開くと、ネタバレを読んでいただけます。

 
1996年
FBIの捜査開始からおよそ90日後。
リチャードとワトソンの主張が認められ、FBIは捜査を中止。リチャードの無実が証明される。
 
2002年
リチャードは、警官になって地元の警察署に就任。
 
2003年。
事件の真犯人エリック・ルドルフが逮捕される。
 
2007年
心臓疾患により、死亡。享年44歳。

晩年は健康状態に問題を抱えていたと言われているリチャード。

2007年8月29日、自宅で死亡されているところを発見されます。

44歳、早すぎる死でした。

『リチャード・ジュエル』感想

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

覚醒したリチャード・ジュエルを見逃すな

「巨大な権力によって無実の罪をきせられた一市民が、孤独な戦いの末に自由(無罪)を手にする」

古今東西やり尽された王道のテーマですが、イーストウッドは、この定石をわずかにずらします。

本作の主人公リチャード・ジュエルは、お人よしで優しい人物である同時に、間抜けで問題の多い「勘違い野郎」として描かれています。

つまり、彼は、付け入るスキが多すぎる。

真実を知っている観客ですら、「いや、お前それは疑われても仕方ないぞ…」と思わずにはいられない間抜けっぷりなのです。

拗らせ中年男、リチャード・ジュエル

リチャードは、法の執行官(警察やFBI)に憧れる、いわゆる「セキュリティマニア」であり、ようは、拗らせた貧しい中年男です。

地元の大学に警備員として勤めていたときも、調子に乗って学校外(公共の場所)で生徒を取り締まっていたり(もちろん即クビ)、税金を2年間も滞納していたり…

問題の多い過去、母と二人きりの質素な生活、爆発現場に散乱していたベンチの破片を記念に持ち帰ったり、狩猟用に驚くほど多くの銃を持っていたり、黙れと言われてもついつい喋ってしまったり…

とにかく、つけ入るスキが多すぎるのです。

徐々に変わる、リチャード・ジュエル

法執行官に憧れるリチャードにとって、敵であるFBIは、敵ではなく身内も同然の存在なのです。

不当な取り調べや家宅捜索に、文句ひとつ言わずに協力してしまう。

しかし、そんなリチャードも捜査が長引くにつれて、次第に不安と不満を募らせます。

一つも好転しない状況、どころかこんなにも協力しているのに自分はどんどん不利になっていく…

加速するメディアの報道、最初はヒーローだと褒めたたえていたくせに…

物語中盤から終盤にかけて、リチャードの真ん丸な体と心に闘志が宿り始めます。

ついに覚醒する、リチャード・ジュエル

自分が信じていた絶対正義(権力や法)は、ただのまやかしだった。嘘だった。

正しいことをした自分を、彼らは守ってはくれない。

お人よしで優しい、間抜けで勘違い野郎のリチャードは、その重すぎる腰をついにあげ、FBIに立ち向かいます。

映画のラストシーンですが、宿した闘志が、激しく燃え上がる瞬間は、叫びたくなるほど素晴らしいです。

その瞬間、彼は真の意味での「無実のヒーロー」になるのです。

サム・ロックウェルが素晴らしい

リチャードとともに国家権力に立ち向かう弁護士、ワトソン・ブライアントは、近年話題作に出ずっぱりのサム・ロックウェルが演じています。

この辺りの配役の妙というか、バランス感覚もさすがです。

正直言って、主人公リチャード・ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザーは、それほど著名な俳優ではありません。(著名ではないからこそ、本作は成功したともいえますが)

ワトソンは、リチャードの弁護士という枠を飛び越えて、間抜けな彼の友人であり、世話係でありもあります。

劇中でジュエルの手を取って無実へと導くワトソン、彼の力強さと頼もしさは、ベテラン演技派俳優サム・ロックウェルだからこそ表現することができた。素晴らしい配役だと思います。

イーストウッドが鳴らす、現代社会への警鐘

1996年が舞台の映画ですが、現代にも通じるテーマがあります。

イーストウッドは、本作を通じて現代社会へと、ハッキリと警鐘を鳴らしています。

SNSが生活の中心になった現代、目に見えないバーチャルの世界では、星の数ほどの誹謗中傷が蔓延していてる。

そして、目に見えるリアルな世界では、膨れ上がった大衆の悪意によって、人が死ぬ。

人の人生なんて、個人の指先ぬ動き一つ、ボタン一つで消え去る世界。

誰もがリチャード・ジュエルになってしまう危険をはらんだ世界に生きる、全ての人々に向けられた、これは、イーストウッドからの警鐘です。

あとがき

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

完璧な作品とは言えません。「クリント・イーストウッド最高傑作」ともいえません。少なくとも個人的には。

嘘の記事によってリチャードたちを苦しめた女性記者、「お前は自分の過ちに気づいてちょっと涙を見せて終わりか?コノヤロー!」とも思いますし…

だけど、やっぱり、鑑賞後に残るたしかな余韻は、温かいともし火は、

Milk

あぁ、クリント・イーストウッドの映画だなぁ。良い映画を観たなぁ。

と、実感できます。