『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』エクステンデッド・カット版滑り込みセーフ。何度観ても最高。作品そのものももちろん素晴らしいけど、それ以上に、映画を観ているその時間、その行為そのものがとても豊かで、贅沢で、価値あるものだってことを再認識させてくれる極上の映画作品。 pic.twitter.com/gG8Z6AFIha
— FT@TBNH&FJ (@walnutmilkwheat) November 28, 2019
クエンティン・タランティーノ最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
映画好きの映画好きによる映画好きのための極上の映画、それが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』です。
本記事では、キャスト・スタッフ、鑑賞前の必須知識、あらすじと感想をまとめています。
(タップできる)目次
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の評価
© 2019 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
1969年をただ見せるだけ
タランティーノ曰く「きっちりとしたドラマではなく、1969年のとある3日間をただ見せるという映画にしたかった」という『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
本作において重きをおかれているのは、演出やストーリーではなく、映画の世界を形作り彩る、美術や衣装などです。
タランティーノの頭の中の「むかしむかしのハリウッド」を、丸ごと再現したその映像を、是非その目でご覧下さい。
タランティーノ渾身のサントラ
さらに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、音楽が最高です。
タランティーノが自ら選曲したサウンドトラックは、まさに「1960年代ハリウッドへのラヴ・レター」。
ポール・リヴィア & ザ・レイダーズ、ディープ・パープル、ニール・ダイアモンド…
特に往年のロックファンにはたまらない選曲です。
タランティーノ渾身のサウンド・トラック、これがなければ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は始まりません。
そして、あらゆる小ネタが仕込まれた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、観返すごとに新しい発見と出会いに溢れた映画です。
FT
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』スタッフ&キャスト
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』スタッフ
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』スタッフ | |
---|---|
監督 | クエンティン・タランティーノ |
脚本 | クエンティン・タランティーノ |
撮影 | ロバート・リチャードソン |
美術 | バーバラ・リン |
衣装 | アリアンヌ・フィリップス |
タランティーノ9作目の作品
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、クエンティン・タランティーノ監督の9作目の作品です。
彼の作品はもちろんすべて鑑賞していますが、個人的な好みでいえば『レザボアドッグス』『パルプフィクション』が大好きです。(王道ですが)
前作『ヘイトフルエイト』も劇場まで足を運んで鑑賞しましたが、個人的にはあまり…だったので、本作は期待と不安半々の気持ちでチケットを購入しました。
不安は開始早々どこかに消し飛びました。残ったのは期待だけ。映画が進むにつれて期待は確信に変わり、鑑賞後に確信は満足に変わっていました。
様々なメディア・著名人の発言に全面的に賛同します。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はタランティーノ最高傑作です。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』キャスト
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』キャスト | |
---|---|
リック・ダルトン | レオナルド・ディカプリオ |
クリフ・ブーフ | ブラット・ピット |
シャロン・テート | マーゴット・ロビー |
ジェイ・シプリング | エミール・ハーシュ |
プッシーキャット | マーガレット・クアリー |
ジェームズ・ステイシー | ティモシー・オリファント |
トールディ | ジュリア・バターズ |
テックス | オースティン・バトラー |
スクィーキー・フロム | ダコタ・ファニング |
ブルース・リー | マイク・モー |
スティーブ・マックイーン | ダミアン・ルイス |
チャールズ・マンソン | デイモン・ヘリマン |
マーヴィン・シュワーズ | アル・パチーノ |
レオナルド・ディカプリオ(リック・ダルトン)
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ディカプリオ演じる本作の主人公リック・ダルトン、彼は、今まさに栄光からどん底へと転がり落ちているっ真っただ中にいる憐れな男です。
悪魔も憐れむ男です。
栄光の過去にしがみつき、落ち目の現実を受け入れらずにいる。酒におぼれアル中気味で、よく泣き、よく喚く。
そんな「憐れな男」を「愛すべきチャーミングな男」に魅せてしまう、ディカプリオの演技が素晴らしい。
ブラット・ピット(クリフ・ブーフ)
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ディカプリオ演じるリックとは対照的に、クリフ・ブーフ(ブラットピット)は、いつでも飄々としていて、何が起こっても決して怖気づかない勇気をもった男です。
それは、彼が戦争の帰還兵だからかもしれません。
これまでにも様々な映画で兵士役を演じてきたブラット・ピットの、まさにハマり役。
本作のクリフは、まるでブラット・ピットそのもののようなキャラクターです。
マーゴット・ロビー(シャロン・テート)
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アカデミー賞ノミネート経験もある新時代のハリウッド女優、マーゴット・ロビー。
ディカプリオとの共演は本作が2度目。(1度目は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」)
絶世の美貌と高い演技力、それでいて天真爛漫とした飾らない雰囲気は、観る人を性別関係なく虜にします。
マーガレット・クアリー(プッシーキャット)
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独特の存在感を放つ、今、注目の女優マーガレット・クアリー。
本作ではキュートなヒッピー、プッシーキャットを演じています。
Netflix版『デスノート』(2017)の出演によって日本でも知名度が上がった女優ですが、2019年は彼女のさらなる出世年といっていでしょう。
本作はもちろん、Netflix映画『ユピテルとイオ』では主演を務め、全世界待望のPS4ゲーム『デス・ストランディング』では主要キャラで出演。その他『ネイティブ・サン 〜アメリカの息子〜』にも出演しています。
今後のマーガレット・クアリーからも目が離せません。
ダコタ・ファニング
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大きくなって…。
僕ら世代(アラサー)でダコタ・ファニングと言えば、ショーン・ペン主演の「アイ・アム・サム」やトム・クルーズの「宇宙戦争」、この2つの作品の娘役を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
少し下の世代だと、妹のエル・ファニングの方が有名だったりします。
なんだか、久しぶりに昔の友人に会えたような気がして嬉しかったです。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』必須知識
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をはじめて鑑賞する上で、必ず知っておかなければならない予備知識、事前知識があります。
「シャロン・テート殺害事件」。
この事件は1969年のハリウッドで、実際に起こった悍ましい出来事です。
本作の舞台は1969年のハリウッド。
つまり、本作は、「シャロン・テート殺害事件」に向かって物語が進行していく作りになっています。
しかし、だからといって、劇中では事件そのものの説明は一切なく、「観客が事件の概要を知っていることが当たり前」の形で物語は進みます。
とくにラスト30分は、この事件を知っているかいないかで、楽しみ方が大きく変わります。
絶対に知っておいたほうがいいでしょう。
1969年8月9日、狂信的カルト指導者チャールズ・マンソンの信奉者達の一人、スーザン・アトキンスら3人組によって、一緒にいた他の3名の友人達と、たまたま通りがかって犯行グループに声を掛けた1名と共にロサンゼルスの自宅で殺害された。
当時シャロンは妊娠8か月で、襲撃を受けた際に「子供だけでも助けて」と哀願したというが、それが仇となりアトキンスらにナイフで計16箇所を刺されて惨殺された。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』あらすじ
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50年代の彼は、敵無しだった。
彼の名前を知らないものなどいなかったし、テレビの画面には、毎日のように彼の姿が映し出されていた。
彼の名前は、リック・ダルトン。
俳優・ハリウッドスターだ。
1960年代も終わりに差し掛かった、1969年2月。
彼の栄光の50年代は、もうとっくの昔に過ぎ去っていて、そして、もうすぐまた、新しい時代がやってくる。
リックは落ち目だった。
かつては主演俳優だったが、今の彼に回ってくる役はといえば悪役ばかりで、しかも最後には必ずボコボコにされる惨めな役ばかりだった。若手主演俳優の引き立て役だ。
リックには一人の親友がいた。
妻も子供もいない彼だが、彼には親友がいた。
親友の名はクリフ・ブーフ。
クリフはリックのスタントマンだ。50年代の二人は無敵だった。
しかし、今は違う。リックの仕事が無くなるのと比例して、クリフの仕事も当然少なくなった。車の運転とか屋根の修理とか、今の彼は、リックの身の回りの世話役でしかなった。
かろうじて豪邸にしがみつくリック。
愛犬とともにトレーラーハウスに住まうクリフ。
中年男たちのぼんやりとした日々。
しかし二人の友情だけは確かなものだった。
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その日、クリフはヒッピーの少女(プッシーキャット)を車に乗せた。ヒッチハイクをしていた彼女は、今はもう使われていない映画の撮影場所に行きたいといった。そこに住んでいるという。
ハリウッドの賑やかな街並みから、岩山がむき出しになった郊外へ車を走らせる。
着いた場所は、ボロボロの車が立ち並ぶ荒れ果てた砂漠のよう場所。そこには多くのヒッピーが暮らしていた。当然、彼女たちがそこに住む正統な権利はないが。
異様な雰囲気だった。ヒッピーたちの暗く沈んだ目は薬のせいなのだろうか…。とにかく、まともな連中ではないことはたしかだった。
ヒッピーの一人が、クリフが乗ってきた車のタイヤをパンクさせた。
全く怖気づくことなく、「タイヤを交換しろ」と命じるクリフ。ヒッピーは、ただ笑うだけ。
次の瞬間、クリフの拳が男の顔面にめり込む。血を吹き出して倒れる男。続けて2発目、3発目。
男の顔が赤く染まった。
言い忘れていたがクリフは元軍人で、とても強い。ひょろひょろのヒッピーが勝てる男ではない。
時を同じくしてリックは、久しぶりに自分が納得できる演技ができたことでうれし涙を流していた。いや、安堵の涙か…。
監督をはじめ、周囲の人物も彼の演技を絶賛した。
リックの鬼気迫る演技が、ある人物の目に止まった。
映画プロデューサーのマーヴィン・シュワーズという男性の目に。
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シュワーズの紹介で二人はイタリアに飛んだ。
「質の低いイタリア映画になんか出てられるか!ファッキュー!」の姿勢だったリックも、背に腹は代えられない。もしかしたら、希望があるかもしれない。
二人は、「金」と「再帰」を求めてイタリアへと旅立った。
1969年2月~8月までの半年間で、リックは4本の主演作にで役を演じた。
結婚もした。
いっときの金は得たリックだが、結局この先のことなんてわからない。アメリカに戻っても仕事はもうないかもしれない。
リックにはクリフを雇う金がなかった。家のローンを払うこともできない。二人は契約を解消するほかなかった。
飛行機がアメリカに着けば、二人の関係は終わりを迎える。
男の友情の終わりには、酒しかない。
ハリウッドに帰ってきた二人は飲み明かした。酔った。
数時間後に二自分たちの身に何が起こるのか…
この時のリックとクリフには知る由もなかった。
1969年8月9日―それぞれの人生を巻き込み映画史を塗り替える【事件】は起こるー
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想
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圧巻のラスト30分
クライマックスのラスト30分間がとにかくスゴいです。
ラスト30分で、時間軸は一気に1969年2月から1969年8月にジャンプします。
具体的な日付は1969年8月8日。
そう、「シャロン・テート殺害事件」の前日です。
語り部はハリウッドの街そのもの
ラスト30分の語り部は、ハリウッドという街そのものです。
リックとクリフの視点ではなく街の視点で、二人がハリウッドに戻ってから事件が起きるまでの間が、時間単位で克明にコラージュされています。
まるで、街全体に設置された監視カメラの映像を観せるかのように、街の各所に視点をジャンプさせることで、観客の緊張を刻一刻と高めます。
この先、どんなに悲惨で残酷な悲劇がシャロンの身に起きることを分かっているからこそ、観客は目をそらすことができないし、手に汗握ります。
ラストは、あなたの目で確かめてください。
これからの歴史のことなんて、まるで知らないかのように
1969年と言えば、ヒッピーたちによるフラワームーブメント最盛期の時代。
そんな1969年を象徴する出来事といえば、やはり『ウッドストック・フェスティバル』があげられるでしょう。
今では全世界で当たり前になった大規模野外音楽フェスティバルの草分け的存在、伝説のフェス『ウッドストックフェスティバル』は、1969年8月15日~18日にかけて開催されました。
(奇しくも「シャロン・テート事件」の直後です。)
葉っぱを吸ってラリって踊り狂う若者。ヒッピー。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出てくるヒッピーそのままのイメージです。
彼らは、労働することを嫌がった。自由になりたかった。だから、彼らは髪を伸ばし髭を蓄えた。いかにも反社会的なファッションで街を闊歩した。
既存の価値観や体制、政治に真っ向から対決を挑む「カウンター・カルチャー」。1969年代においてその中心こそがヒッピーでした。
しかし、歴史が語る通り、彼らは負けます。あっさりと。
1970年に入ると、ヒッピーを中心にしたカウンターカルチャー「フラワームーブメント」は急速に衰退。彼らは髪を切り、髭を剃り、仕事に就きます。
ムーブメント衰退の原因はいつくかあるとされていますが、そのひとつに「オルタモントの悲劇」が挙げられます。
事件は、ザ・ローリング・ストーンズ主催の大規模野外コンサート(観客は50万人にも及んだとか)で起こります。
ライブセキュリティを任された自警団もどきの暴走族「ヘルズ・エンジェルス」が、ストーンズの演奏中(意味もなく)黒人男性を殺害したのです。
1969年12月6日カリフォルニア州での出来事です。
ちなみに「ヘルズ・エンジェルス」の名前は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも出ていました。
役作りに悩んでいたリックに、監督が言った台詞で「ヘルズ・エンジェルスのように思い切りやってくれ」というものがありました。
「シャロン・テート殺害事件」や「オルタモントの悲劇」で、人々は気づいたのです。結局この世には「ラブ&ピース」なんて存在しないことを。
1969年という夢と希望と愛に溢れた最後の時代を、まるでこれから起こる悲惨な出来事や歴史のことなんて、なにも知らないかのように描いているのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』という映画です。
だからこそこの映画は素晴らしい。
あとがき
映画を観ることは、人類に残された最後の、とっておきの贅沢なんじゃないだろうか。
嫌な時代だけど、映画を観ているときくらいは、せめて夢をみましょう。