問題作にして大傑作。THE1975の3作目『ネット上の人間関係についての簡単な調査』の感想 | thedeeprivers

問題作にして大傑作。THE1975の3作目『ネット上の人間関係についての簡単な調査』の感想

日常のあちこちに散らばっているガラクタを拾い集めて、「ほら君の人生はこんなにも綺麗なんだよ」と、言ってくれているような、そう思わせてくれるような、

THE1975の新作『ネット上の人間関係についての簡単な調査(原題:A Brief Inquiry Into Online Relationships)』を一聴して感じたことは、そんな感想でした。

思えば、一作目『THE1975』と二作目の『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』は、まだ誰も知らない景色を見せてくれるような、ここではない何処かへ連れていってくれるような、そんな作品でした。
現実離れした、完璧に作り込まれた、まさに非現実的作品。

「サード・アルバムはバンドにとって最も大きな分岐点だ」

過去に語っていたマシュー・ヒーリー。

『ネット上の人間関係についての簡単な調査』は、まさにTHE1975史上最大の問題作にして最高傑作です。

THE1975『ネット上の人間関係についての簡単な調査』感想

THE1975

お馴染み、バンド名を冠したインスト。今回はTHE1975流R&B。

作品への導火線、どころかすでに大爆発を起こすほどエモーショナルで最高です。

Give Yourself A Try

2曲目でこれはセコい。疾走感溢れる、というかむしろ疾走感しかないキャッチーでポップな彼らの新しいアンセム。

『挑戦してみようぜ』というタイトル通り、ポジティブなメッセージ・ソングかと思いきや蓋を開けてみると、マシューが彼らの少年少女のファンに対して「俺みたいな失敗作にはなるな」と歌う、まさかの警告ソングというサプライズ。

(今作、歌詞・対訳は必見です。)

それにしても、MVの赤髪マシューに度肝抜かれた6月が遠い昔のよう…。

TOOTIMETOOTIMETOOTIME

シングル2連打。冒頭3曲でアルバムの掴みはOK!どころか、掴んで離しません。離してくれません。鷲掴みです。

これぞTHE1975の王道ソング。名付けて“快楽ポップソング”。

「もうこの世界なんかどうせクソだから、楽しい方に逃げようぜ」って感じの軽薄さが最高です。

How To Draw / Petrichor

壮大で幽玄なエレクトロニカがいつしか神経を逆撫でするかのようなブレイクビーツに濡れていく様は、レディオヘッドを連想しないで聴くほうが難しいはず。

ちなみに『Petrichor』とは、雨の降り始めに地面から立ち込めてくる“あの”匂いを表す言葉。

あぁ、いちいちエモい。エモすぎる。

Love It If We Made It

シングル曲であり、間違いなく今作の根幹、背骨を成す曲。

ヘロインに溺れ、ミレニアル世代のポップスターを買って出たマシュー・ヒーリーからマシュー・ヒーリーへの痛烈な批判と憎悪のような嫌悪。そのすべてが込められた生々しいリリックは、まるで散弾のように連射されリスナーの耳を打ち抜きます。

この圧倒的リアリティ、精度が今作を傑作に仕上げているのは疑いようのない事実。

Be My Mistake

儚げで優しいアコースティック・バラッド。かと思いきや、歌詞が中々に意味深で、「THE1975はやっぱり一筋縄じゃいかないなぁ」を思い知らせれます。

Sincerity Is Scary


アルバムリリース直前、MVが公開されるや否や世界規模で話題となったこの曲。

THE1975の典型的で王道的なポップソングにゴスペルの花束を渡したら、こんなにも素晴らしいジャジーなソウルナンバーになっちゃいました!といった感じの曲。

最高です。

I Like America & America Likes Me

タイトルからして気になっていた曲。

思ったより普通。
癖の多い作品の中で安心して聴ける箸休め的な1曲。

The Man Who Married A Robot / Love Theme

ある一人の男。いや、独りの男。

彼はインターネットだけが友達だった。

彼は今日、唯一の友を失ってしまった。

独りの男の破滅を知らせるのは、まるでニュースを読み上げるキャスターのように淡々としたポエトリーリーディング。

からの一転して後半。

美しくロマンチックなストリングスによって彩られるラストは、まるで一つの映画のエンドロールのようです。

Inside Your Mind

ミレニアル世代のポップ・アイコンになったって、全英全米1位を獲得したって、成功の裏でのたうち回るほどの薬物中毒に苦しんだって、トランプ政権に中指を立てたって、

いつだって、マシューの頭の中はきっとこんなことでいっぱいなんだ。

It’s Not Living (If It’s Not With You)

https://www.youtube.com/watch?v=r-14ylqaQC0

THE1975史上、一番好きな曲。

ちょうどイギリス滞在時に先行リリースされて聴いたからだろうか。この曲を聴くとイギリスの風景を思い出さずにはいられません。僕の中でイギリスといえば、この曲。の、うちの一つです。

デビュー時から、いや、おそらくデビュー前からずっと、THE1975が得意としていた十八番中の十八番、一撃必殺ニューウェイブ・ポップソング。

Surrounded By Heads And Bodies

この緩急の付け具合ですよ。

THE1975印炸裂のキャッチーソングを放り込んできたかと思えば、これですよ。

泣いてしまいますよ、こんなの。

レコードでは、side Cのラストを彩る一曲です。

レコードも買おう。

Mine

ここからside D。いよいよラストです。

それにしても沁みる。心に染み渡るような優しい曲。

ラスト2曲への布石もばっちりですね。分かります。

終わりに向けてこんなセンチメンタルな曲を持ってくるあたりニクいな、ちくしょー。

I Couldn’t Be More In Love

あー、エモい。マシューの歌声が最高にエモいです。

この記事で何度エモいって言ったのだろうか。

そう言えばエモいってエモーショナルの略語かと思いきや、

 

エモいという日本語、どうやら容易に言語化できない複雑な感情を表す言葉として運用されているので「エモいの語源はエモーショナルではなく『えもいわれぬ』である」というのが説得力を帯びはじめている。

Twitter

こんな説もあるみたいです。

あぁ、いとエモし。

I Always Wanna Die (Sometimes)

いや、もうタイトル。タイトル、反則。

分かる。分かるなぁ。「いつも死にたいと思ってる、時々ね。」

しかもこの曲をアルバムの終わりに持ってくる徹底した“してやったり感”。

うん、嫌いじゃないよ、てか、むしろ好き。

マシュー・ヒーリーの、THE1975の思うツボですね。

 

あとがき

過去作ではまさに“夢”をみさせてくれたTHE1975。

何処か遠く、誰も見たことのない素晴らしい景色をみせてくれた。

今作では、“ここではない何処か”ではなくて、まさに“今この場所”。

「君のいるその場所は、きっと世界中のどこより美しい。

クソみたいな世の中に絶望もするし、死にたくなることもあるけど、おれも一緒一緒。まぁもうちょっと頑張ってみようぜ。」

そんなことを言われたような気がしました。

そんな急に優しくされると泣いてしまうよ、セコい男たちだ、まったく。

『ネット上の人間関係についての簡単な調査(原題:A Brief Inquiry Into Online Relationships)』

日曜日の朝の白いカーテンのように、真冬の暖かい布団のように、愛猫の柔らかい毛並みのように、愛する人と手を繋ぎ合うように、

暖かくて優しい純粋な作品。

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