『失くした体』あらすじ・感想・考察【世界が絶賛したフランスアニメーション映画】 | The Bird's Nest Hair  
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『失くした体』あらすじ・感想・考察【世界が絶賛したフランスアニメーション映画】

2019年11月29日よりNetflixで独占配信がスタートしたフランスのアニメ映画、『失くした体』。

2019年の第72回カンヌ国際映画祭批評家週間ではグランプリを受賞。世界最大のアニメ映画祭、第43回アヌシー国際アニメーション映画祭においても最高賞のクリスタル賞と観客賞をダブル受賞した、2010年代最後の傑作長編アニメーションです。

本作では、『失くした体』のあらすじ・感想(ネタバレ含む)をまとめています。

『失くした体』スタッフ&キャスト

『失くした体』スタッフ

『失くした体』スタッフ
監督ジェレミー・クラパン
製作総指揮マルク・デュ・ポンタビス
原作ギョーム・ローラン
脚本ジェレミー・クラパン ギョーム・ローラン
音楽ダン・レビ

脚本:ギョーム・ローラン

2001年公開のフランス映画『アメリ』で脚本を担当、アカデミー賞にもノミネートされたギョーム・ローランの小説『Happy Hand』が本作の原作です。

また、ローランは監督のジェレミー・クラパンとともに、脚本も執筆しています。

『失くした体』キャスト

『失くした体』キャスト
ナウフェルハキム・ファリス
ガブリエルビクトワール・デュボワ
ガブリエルの叔父パトリック・ダスンサオ

『失くした体』あらすじ

パリの極秘医療研究施設から、切断された「右手」がひとつ、脱走した。

脱走した「右手」は、本来の持ち主がいる場所へと帰るため、ひとつパリの街を彷徨う。

何かに触れるたびに「右手」は、少しずつ過去を思い出していく。

「右手」の主はナウフェルという青年だった。

彼はピザの配達人として何とか生計を立てる貧しい若者だった。

彼には夢があった。世界を旅するピアニストに、あるいは宇宙を旅する宇宙飛行士に、彼はなりたかった。

しかし、両親の「死」以降、彼の夢は脆くも崩れ去ってしまう。

幸せだった幼少期、両親を亡くした辛い記憶、好きな人がいた記憶…

様々な記憶が「右手」を突き動かす。

『失くした体』感想・考察

①:絵の力で勝負するアニメーション

宮崎駿、大友克洋、松本大洋、鳥山明、浦沢直樹…

日本を代表するアニメーション監督や漫画家の多くが、フランスの漫画・アニメーション文化「バンド・デシネ」に多大な影響を受けていることは、広く知られている事実です。

「全ては必然で、不必要なものはひとつもない。あるべくしてある、必要な「線」だけの集合体。」

アニメーションだからこそ表現できる感情の高鳴りが、『失くした体』にはあります。

繊細なタッチ、大胆な絵の動き、日本のアニメーションではあまり見られない独特の雰囲気・良さがあります。

近年、日本のアニメーションは「物語」に重きを置きがちで、純粋に「絵」の力で勝負するようなアニメーションは随分少なくなりました。(日本のアニメーションも、もちろん大好きですが)

かつての「ジブリ作品」や90年代の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」、00年代の「鉄コン筋クリート」、最近だと「海獣の子供」…

そういった「絵の力」で勝負するアニメーションが好きな方は、間違いなくおすすめです。

②:小さな視点から描かれるパリの街並み

本作の進行は、1.持ち主を目指してパリの街を冒険する「右手」、2.回想(「右手」の主、ナオフェルの過去)の、大きく二つに分かれます。

「右手」が何かに触れるたびに、記憶のフラッシュバックシーンが挿入されていくという構成ですが、1.の「右手」の大冒険がとにかく面白いです。

小さな視点から見上げるパリの視点は暗く冷たい、僕ら日本人が想像する花の都パリとは全く違う世界です。

ドブネズミに捕食されそうになったり、ごみ収集車に紛れて燃やされそうになったり、凍てつく冬の川に流さたり、ボロボロに朽ちた傘を翼にして高速道路上空を横断したり…

小さい存在が、あの手この手で冒険していく様には、ピクサーの名作「トイストーリー」を彷彿とさせずにはいられません。

「右手」に向かって、頑張れ!そうつぶやいてしまう自分がいます。

また、「手」なので、台詞が当然存在しませんが、そこがまた面白い。

余分なものをすべてそぎ落としたような作品だと感じました。

③:「色」で表現される登場人物の世界

『失くした体』では、「色」も非常に大きな役割を担っています。

「右手」が冒険するパリの街並みは、暗い青を基調とした色で描かれています。

また、差し込まれるナウフェルの両親との思い出の記憶は全て、モノクロの世界です。

青年になったナウフェルがピザ屋でバイトをしている記憶では、常に青く光る冷たい雨が降り続いています。

暗い青と白黒、それはどちらも「体温」を伴っていない色です。

これは、ナウフェル自身の体温ではなく、ナウフェルが他人の体温を感じられていないことを表現しています。

両親はすでにこの世には存在しない、バイトではひどい扱いを受けるナウフェルは、他人の温もりを知らない毎日を過ごしています。

そして、そんなナウフェルの毎日に突如現れた本作のヒロイン、ガブリエルです。

象徴的なのは、彼女が付けているイヤフォンの色です。

これまで徹底してダークトーンで描かれていた世界で、輝く鮮烈なビビッドカラーのヘッドフォン。

「恋をすれば、急に世界は色づき始める」とはよく言いますが、まさに、ナウフェルが恋をして、彼の世界に体温が伴った存在が現れたことを表現しています。

このような「色」による心象を描いているアニメは、以外にそう多くはありません。

しかし、これこそアニメの真骨頂という感じがして、とても好きなシーンでした。

④:蠅と運命

『失くした体』では、事あるごとに黒い「蠅」が登場します。

蠅といえば、多くの場合「死のメタファー」として描かれる生き物ですが、本作の蠅は「運命」を表しています。

ナウフェルの回想シーン、彼の父の言葉です。

「蠅を捕まえるときは、横から狙え。蠅は人間よりも早いから、狙っても逃げられる。死角から攻めるんだ。人生に常に勝利はあり得ないから、簡単じゃないが。」

そしてナウフェルは人生に運命について、「既定路線ではなく、わざと横に逸れて行先を変えることで運命は変わる。例え後悔しても公開しなくなるまで突き進むんだ」と、言うことを語っていました。

蠅、つまり運命を出し抜くために、わざと横道に逸れるしかない。たとえ途中で後悔したとしても、後悔しなくなるまで突き進むことで運命は変えられる。

ナウフェルは一匹の蠅を追い払おうとした結果、裁断機によって誤って自分の右手を切断してしまいましたが、ラストシーンでの彼は、彼は「右手」が失ってしまったことを受け入れ、前に進んだ様子が描かれていました。

この後のナウフェルに待ち受ける困難は想像を絶するものですが、いつかきっと、彼が、蠅(運命)を出し抜く日が訪れることでしょう。

あとがき

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僕たち人間は、普段の生活の中で驚くほど多くのことに、「手」を使います。

僕が、今まさにタイピングを行い、目の前でせわしくなく動いているのも、もちろん「手」です。

この「手」で、たくさんのものを手に入れ、そして、たくさんのものを手放してきました。

人生、多かれ少なかれそんなことの連続です。

大切なことは、「何を手に入れたままにする」か、「何を掴んだままにするか」だと思います。

自分で選び、選択することが重要です。

「手にしたままのもの」それこそ、幸せと呼べるものではないでしょうか。

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